【感想】 2019年 ジャパンカップ

かつてインタビューで、「競馬は馬7、人3ですよ」と言った騎手がいる。彼は、事実以上に自分の腕を持ち上げられる(=常に神がかり的好騎乗を期待される)ことを嫌って「レースは騎手の力だけで勝てるようなもんじゃないですよ」と言いたかったのだろう。しかし実際、レースには「馬5、人5」、条件戦では「馬3、人7」は確実にあるし、場合によっちゃ「馬2、人3、運5」だってある。

今年のジャパンカップ勝ち馬の場合は「馬5、人5」だろう。エリザベス女王杯マイルチャンピオンシップもそうだった。

勝利の瞬間はなぜか美しい。人馬一体が顕現したように映る。この美しさも、サラブレッドという生き物が付帯的に持つ美しさのひとつなのだろう。

 

優勝(1着)スワーヴリチャード。これはもう「おめでとう!」だ。鞍上のマーフィーは巧かった。今さら言うことではないが、さすが “東京コースのマーフィー” 、道中は前過ぎず後ろ過ぎず、直線ではカレン津村の外を突こうとして「難しい」と知るや内にスパッと切り替えた。鞍上の指示に従うことをしっかり躾けられた馬は、鞍上の迷いを自分のこととして迷い、場合によっては混乱してしまう。『いい加減な指示は出さない』――勝っても負けても馬乗りにはこれが大切な基本で、スワーヴリチャードは今回とてもいい鞍上に恵まれたと思う。

2着レンブーケドール。今年のジャパンカップで一番難しかったのはカレンの取捨だった。私は買えなかった。“最内は水を含んで荒れている” という先入観で不安が先立ってしまった(確かにコーナーは荒れていた。が、直線は芝がところどころ剥がれていたものの、状態としては乾きが早く、重というほどでは無かったようだ)。カレンブーケドールは勝ち馬に競り落とされて4分の3差の2着。津村にとっても陣営にとっても悔しい2着だが、直線のたたきあいで、素人目にも、馬だけでなく津村自身がまさにパワーアップしているのがわかった(レース後、「カレンに乗ってたのが外国人なら勝ってた」と呟いた競馬ファン?がいるが、それならビュイックでも乗せて二ケタ着順にするがよかろう)。津村は33歳、身長165cm(JRA公式)、さる筋に囲い込まれていなければ、「次代の日本人騎手のエースはこの男」と目されてたかもしれない。個人馬主さん、津村にどんどんいい馬を回してやってください<(_ _)>

3着ワグネリアン。不利をこうむるのを嫌ったか、2番枠なのに外に回して仕掛けも遅れ……。どうやら川田は敗者のメンタルに落ち込んでるようだ。オレサマ目力で威嚇してても性根は素直で不器用そう。川田よ、オレサマのままでいいからさ、可愛げのあるオレサマになろうよ。可愛げがあっても脇締めて、足元すくわれないように生きてる見本(先輩)が近くにいるじゃないか。

4着にはびっくりマカヒキ。復活の兆しが見えたとは思わないが、武豊のコメント、「これしかない、というレース」に納得。

5着ユーキャンスマイル。スタート直後に5番と7番に挟まれたのが痛かった。テンから出していく稽古をしていたのに、あれで後ろの位置取りになってしまった。スタミナがあるのはわかってる。だが、だからと言って「直線まで待たないで上がっていけば5着より上の着順になった」かどうかはわからない。そこが競馬の難しいところだ。

6着ダイワキャグニー。これもマカヒキに次ぐビックリだった。逃げたから粘れた面はあるにせよ、7着の菊花賞2着馬とは0.3差。下級条件とはいえダート2400mで2勝してる半兄(アイアムイチバン)がいるのだから、成長と共に中長距離適性が出てくる可能性はゼロではなかった。それを引き出したのは石橋脩の積極騎乗。女性人気の高い石橋騎手だが、ときどきほんとにカッコいいから困る。

7着エタリオウデムーロの不調と調子を合わせるように不振に陥っている本馬、いっそまたデムーロか和田に戻したらどうか。今後も横典続行が決まってるようだが、エタリオウ的にはどうなんだろう?

 

8着以下は割愛。ここで前記事を振り返ってみる。

まずは、ムイトオブリガードの父馬を間違えていたこと。これは恥ずかしい。

次に、ノーザン外厩から帰厩して出走する馬のどれが勝つかと書いたこと。これも恥ずかしい。どれも勝てなかったやないか。勝つどころか良くて3着、悪くてブービー。マーフィーもデットーリも乗らない馬だから調整に熱が入らなかった、てなオチじゃあるまいな。……冗談はさておき、ノーザン外厩に今春までの勢いがない。というか、同じ預託馬でも、重点馬と非重点馬の区別を明確にしたようだ。凱旋門賞のド敗戦をきっかけに、セールのための忖度競馬に内部からも批判があったのかもしれない。

そして、レイデオロだ。騎手がビュイックだから当てにしなかったが、当てにしない以上に、本馬場入場ですでに「あれで外国人騎手?」と思った。馬はいたって普通なのに、表情おどおど、腰が引けてましたやん。芝の重馬場に何かトラウマがあるのか、それともどっかのマフィアに「やらなきゃ意味ないよ」と脅されてたのか。「馬乗リノ経験アリマス、自信アリマス」と牧場に自分を売り込んで、実際にはまたがるのが精いっぱいな牧童見習いのようだった。一体誰がレイデオロの鞍上にビュイックを選んだのか。東京芝(3.1.0.0)、2400芝(2.1.0.0)、重成績(1.0.1.0)の昨年の秋天馬、有馬記念2着馬が11着だよ。体調が悪かったなら、申告して北村宏司か松岡に交代してほしかった。