【感想】 2019年 宝塚記念

ダミアン・レーンの『勝つための騎乗』が鮮やかな夏のグランプリだった

前に行くだろうとは思っていたが、あんなに前につけるとは思わなかった。

5、6番手だったら勝ちはなかった。チャンスを待つのではなく、勝てる条件に自分を持っていった。結果、先行押しきりで完勝。ダミアン・レーン天晴れ。リスグラシューも天晴れ

レース後の調教師インタビューで、リスグラシューを預かる矢作調教師は「(あの騎乗は)日本人にはできない」と言ったらしいが、実は日本人にもできないことはない。『できないことはないけれど、やっちゃいけないと教えられ、そう育てられてきた』社会的土壌で、過去には「レースを壊した」「指示に従わなかった」と責められて騎乗機会を無くした騎手だって多くいたはずだ。ダミアン・レーンにしても、キャリアの中で「差し脚で勝ち負けになってきた馬をレースでいきなり脚質転換させて失敗した、怒られた」ことが無いとは限らない。センスは天賦のものだが、経験の蓄積天才がひらめきを開花させるため、凡人がセンスに近づくための必要条件である。

JRA短期免許の最後だからできた冒険ではあろう。しかしこれまでに試してみないとわからんもんな、俺は赦すと言える ‘上の人’ がどれだけいたか、そういう社会環境の違いは大きい

キセキは残念だった。スタートがいい馬でないのは確かだが、今回は特に行き脚がつかなかった。スティッフェリオ丸山は様子をうかがいつつ一旦先頭に立ちながら、押していくのを躊躇してキセキを待ったが、このタイムロスが、レーンに考えて判断する一瞬の猶予を与え、終始キセキ川田をつつくポジション取りをさせたのではないだろうか。

キセキの脚質、川田のこだわりを考えると、これからも大レースではつつかれる展開が続くだろう。キセキにはもう、G1勝ちの上乗せは無理かもしれない――そんな思いもよぎる。キセキファンであり母系祖母ロンドンブリッジの血族のファンでもある私は、そう思ってしまう自分が辛い。

3着にはスワーヴリチャードミルコ・デムーロの意地を見た。いつ追うのをやめるか、G1でもハラハラさせる最近のミルコだが、スタートしてまもなく外を上がっていく隣の桃帽を見て『ハートに火がついた』ようだ。もとより、スワーヴリチャードはスタートで大きな不利があった昨年の秋天以外は、中山競馬場でしか馬券になっていない馬。おかしな不利さえなければチャンスは十分。ただ、‘ 追われながら坂を上がる ’ のが苦手なので、ヨレ癖を修正しながら追わなければならなかったのが痛かった。

4着アルアイン。勝ち馬から1秒1も離されての入線だったが、これは通ったコースが悪かった。コースの最内、ここを通った馬はみな伸びあぐねている。映像でも、芝が剥げ、土が飛んでいるのがよくわかる。レース前、アルアインには距離不安が噂されていた。鞍上の北村友一もそれを怖れて最内を選択したのかもしれないが、もしスワーヴリチャードの真後ろにでもつけていたら、3着とはもう少し差が縮まっていたはずだ。

5着1番人気レイデオロ。全キャリア13戦のうち、関西圏への遠征はわずか2回。1着1回、3着1回。能力は高い。でも生き物。直線に向かうところではルメールが幾度となくムチを振り上げていた。騎手を含めた、陣営の失策によるギリ掲示板だった。

※いま気づいた。訂正。レイデオロは最終オッズ2番人気で、1番人気はキセキでした。わしが投票した日曜朝はレイデオロが1番人気だったのに、どうりで配当安いはずですわ。

 

6着ノーブルマーズ。2019宝塚の結果を除くと、大敗したのは3歳青葉賞時と昨年のジャパンカップのみ。それ以外は負けても0.7差に踏みとどまっていた。何が理由かはわからないが、4歳で1600万下を勝ち上がり、5歳でOP~重賞のひとつぐらい勝っても不思議ない力量の馬なのに、OP以上を未勝利のまま6歳を迎えてしまった。もしこの馬にずっと乗り続けている騎手がいるなら、この馬の引退までにせめて1勝、勝ち星を加えてやるのが責務だと思うがどうだろうか。

スティッフェリオ丸山は、逃げるのをやめて『ついて回る』ことに徹した。それで7着。陣営的には大崩れするよりはよかったのだろうが、「なんだかなー」。こういうレースの向き合い方をしていると、スティッフェリオがポテンシャルとして持っているものを引き出せずに終わるだろう。馬の5歳は「下手したらあとがない」。騎手丸山が知らないはずはないのだが。

 

<おまけ:2019宝塚記念出走時の5歳馬のキャリア

キセキ 16戦4勝

レイデオロ 12戦7勝

アルアイン 15戦5勝

スティッフェリオ 20戦7勝

クリンチャー 14戦3勝

スワーヴリチャード 14戦5勝

リスグラシュー 194勝

勝ち鞍の数より、総出走数を見て驚いた。リスグラシュー、いつのまにこんなに走っていたのか。タフで、けっこう苦労馬。牡馬混G1を勝てて本当に良かった。