ディープインパクト死す(享年 満17歳)

訃報を知ったのは昼休み。

ネットのニューストピックに載っていた。

言葉を交わす同僚の中に、競馬好きはいない。

じっとしていられなくなったから、馬仲間が集まるあの店に行って、

気持ちが収まるまでとりとめなく話をして話を聞いて

時間をつぶしたかった。

でも、それが叶わないのでこれを書いている。

 

私はディープインパクトのファンではない。

ディープインパクトの現役時、同じ02年産で応援していたのは

アドマイヤジャパンアドマイヤフジシックスセンスだ。

けれど、ディープインパクトは壁として敵として大きすぎる存在だったから、

薬物問題で凱旋門賞3位入線が失格になった時には、

“知っていて黙っていた、様子を見ていた”と思しきフランス人を非難し、

(熱発時、レースが近い場合に処方する薬物について、

 外国人であるディープ陣営が現地の競馬関係者に尋ねないはずはないから)

ディープ陣営を擁護した。

心無い人はその後もディープインパクトを薬物馬と揶揄したが、

発端が何にせよ落ち度は人間の側にあり、馬に責任はない。

 

ディープインパクトは満17歳と4ヶ月だった。

もしサラブレッドが、無理に走らされることなく、

身の安全を保証され食住足りる中で過ごし、

犬猫などのペット同様医療も受けられたなら、25、6歳までは生きるだろう。

それを想うと早い死だ。

昨年の暮れごろから、ディープの健康状態に不安があるとの噂が出回っていたが、

競馬サークルの中にいるわけでなし社台系のクラブメンバーでもないこちらには

情報の真偽を確かめる術がなかった。

 

「首の手術を受けて、それは成功したが首の骨折が見つかった」というのが

外野の私にはなんとも解せない(なぜ首の手術? 首の骨折は何が原因?等)が、

今年の種付けではバランスを崩す場面が多かったらしい。

その原因を頸椎の異常とみて関係者は手術に踏み切った。

しかしその頸椎異常、“種付け回数の多さ”が影響していた可能性はないだろうか。

(牡馬が自分の体をほとんど動かさず種付けを済ますことはありえない)

 

種牡馬としてほぼ同じ年数働いて、

同じ馬齢で亡くなった元競走馬を例にとってみよう。

 サンデーサイレンス

種牡馬供用期間:1991年~2002年(12年間)

総種付け頭数 :1837頭

ディープインパクト

種牡馬供用期間:2007年~2018年(12年間)

総種付け頭数 :2771頭

JBIS種牡馬データによる)

 

2019年の種付け頭数はJBIS種牡馬データでは載っていなかった。

なので昨年度実績までの比較になる。

同じ12年間で、ディープインパクト

サンデーサイレンスより 934頭も 多く種付けをこなしていた

年数で大雑把に割ると、サンデーサイレンスは年間153頭、

ディープインパクトは年間230頭

年間と書いたが、実際は種付けシーズン(3ヶ月前後)だけで

それだけの頭数をこなしているのだ。

今年は、フラついてはいても心臓麻痺で倒れたわけじゃなし?、

20数頭に種付けさせ、しかしこれ以上は無理ということで中止になったという。

 

人間でも「痛い」と訴えないと痛いことがわかってもらえない。

ましてや馬。「痛い」と言えない。

我慢することが習い性になっていれば、

触診されてるときでも痛みを我慢することがあるだろう。

(人間はいつから、コトバに頼りすぎて観察をおろそかにするようになったのか)

 

いくら医療技術やホルモン・神経系の投薬知見が

1990年代や2000年前後より飛躍的に発達したとて、

生物としての体には限界があり、

種牡馬はそれが仕事」だとしても無理すぎたのではないだろうか。

 

ディープインパクトは、バブル崩壊で個人馬主の多くが消え、

馬が売れなくなった時代に生まれた。

競馬ファンの多くも会社倒産やリストラに遭い、競馬どころでなくなった。

そのような日本競馬の危機の時代にあって、

競馬に人を呼び戻したのがディープインパクトだった。

 

ポルトガルのアルガ山での野生馬の研究によれば、

野生ウマの社会:霊長類との比較から | 京都大学霊長類研究所 - チンパンジーアイ

野生馬は、オス1頭につきメス5頭の群れだそうだ。

これを仮に、食住足りていない(餓死や襲われての死もある)から

オス1頭につきメス5頭だとしよう。

では、食住足りていればどうなるか。

それでもオス1頭につきメス100頭にはならないだろう。

50頭、いや30頭にもならないかもしれない。

 

サンデーサイレンスが死んだとき、競馬ファンの間では

「勃起させすぎ、種付けさせすぎが原因じゃないか」と囁かれた。

種付け意欲を呼び起こすためのホルモン投与が

カルシウム不足と免疫系の不全を招いたのではないかという声もあった。

 

ディープインパクトの冥福を祈ります。