【感想】 2019年 菊花賞

今年の菊花賞は面白かった。

馬券的には、外厩組や前走条件戦組をバッサリ切り、秋華賞の反省を踏まえて6頭ボックスで勝負、サトノルークスが来てくれたおかげで首の皮1枚つながった。しかし決して、「トリガミじゃなかったから面白かった」わけではない。

何が逃げるか皆目わからなかったこのレースで、逃げたのはなんとMデムーロのカウディーリョ。レースの開始直後からデムーロの逃げを観られるなんて滅多にないこと。もしかしてG1では初か。

カウディーリョは、最後の直線で早々に武ワールドプレミアにロックオンされ、ゴールまであと少しのところで力尽きて8着に終わった。けれど、デムーロが試みた逃げは美しく、また巧かった。一般的に、“巧い逃げ” とは “自分の騎乗馬を勝たせる逃げ・勝たせた逃げ” を指すが、私は “レースを引き締めるラップ刻み”に巧さを感じた。2コーナーを回って向こう正面、スタートから1400m~1800m付近で馬群をひきつけすぎもせず、離しすぎもせず、わずかな揺らぎだけで粛々と逃げるカウディーリョのリズムに、初めて“逃げ”を「きれいだ」と思った

2019年菊花賞の決着タイムは3分6秒0。去年(2018年)は3分6秒1。

JRA発表の馬場状態は去年も今年も同じ「良」で、時計はたった0秒1しか変わらない。なのに感じた面白さには雲泥の開きがあった。あの逃げのおかげで各馬のスタミナと騎手の技術力が問われ、目が離せないレースになったのは確かだ。

菊花賞ラップタイム
2019年 12.9-12.4-12.3-12.6-12.2-12.2-12.7-12.7-12.5-12.8-12.5-12.0-12.0-11.8-12.4
2018年 12.8-11.9-12.5-12.9-12.6-12.4-13.3-13.0-12.8-12.7-12.8-12.2-12.2-10.7-11.3

発表は「良」でも、コースの内側は芝が剥げていた。そして当日の京都芝のレースは距離・条件問わず上がりがかかっていた。そこを、調教で言うと12ハロンを強めに追われ、さらに3ハロンを一杯に追われるマラソンラップ。器用さや瞬発力だけではどうにもならない。ましてや本質的な適性距離が2000mそこそこの馬には厳しすぎた。

デムーロが逃げたことで生じた “何かが起こりそうなワクワク感” は、全馬のゴール後、全着順がわかったあとも裏切られなかった。

 

まずはニシノデイジー。位置取りが後ろ過ぎた面はある。しかし道中でスタミナが削られたのか、追い出されても速い脚は長く続かなかった。

直線の攻防でヴェロックスの脚が鈍く映ったのも残念だった。ヴェロックスとニシノデイジーは夏を越しても胴の長さが変わらず、2000m前後までの馬に見えなくもなかった。それでも、ルメールにはマジック、ヴェロックスには気力や粘りによる、“力差があからさまでない健闘”を期待した。が、実際にはルメールはマジシャンではなく、ヴェロックスは長くいい脚を使える2頭に屈し、さらに大伏兵の2頭にも迫られた。

大伏兵ディバインフォースメロディーレーン。2頭とも前走条件戦の抽選突破組である。馬柱をちらと見て、ディバインフォースは前走で0,2差とはいえ負けているのを確認して切り、メロディーレーンはナイママとタメを張る12戦消化馬、しかも小柄と言われる馬よりさらに100kg小さい体で、前走より斤量が6kgも増える。これではアラブの牝がサラブレッドと同じレースに出てるようなもんである。なので切った。競馬に熱中して条件戦にもかじりついてた昔なら、メロディーレーンの応援複勝を買ってただろう。だが、もう今や、そういう馬を応援で買って「何かあったらイヤじゃないか!」。……というわけで、メロディーレーンのことは早々に『いない、見ない』忘れる馬にした。

これら前走条件戦の抽選突破組が4着5着と掲示板に乗ったことで、このレースを「レベルが低い」と見る向きがある。が、馬場状態を頭に入れてラップを観れば、今年の菊花賞が例年に比べても低くない、むしろ高いほうのレベルであることがわかる。「サートゥルナ―リアが出てたらタダもらいだった」「リオンリオンが出てたら楽勝だった」かどうかはわからない。無事に走りきれることを前提にしたうえで “馬券の堅軸を1頭決めやすい” ということならわかるが。

明け3歳以降に重賞を勝った馬がG2ひとつだけ勝利の2頭しかいないことでレースレベルの高低を語るのは、ナンセンスだ。

むしろ、長距離の名手と言われる騎手たちの戦略と手綱さばきが見られたことと、今の日本では条件馬に甘んじるしかないようなステイヤーが柔らかめな馬場とよどみないラップによって上位に食い込んだ事実を喜びたい。

 

ともかく、 今年の菊花賞を面白くした殊勲は、デムーロとカウディーリョにある

デムーロ、ありがとう。この逃げができるあなたに、スタミナお化けで、且つ切れる脚もある駿馬(近20年でたとえるならテイエムオペラオーか)を持ち馬にしてくれる馬主さんが現われるよう願っている

 

馬主と言えば、勝ち馬ワールドプレミアのオーナー、大塚亮一氏にもドラマがあった。

戻ってきた武豊騎手に握手を求めたシーンで、「えらい小さい人がいるな」と思った。それが大塚亮一氏だった。騎手になりたかったが親に「せめて高校を出てから」と反対され、高校三年時に不利を承知で競馬学校の騎手課程を受験した経歴の持ち主である(レース後、ネット検索して知った)。それだけでなく、大塚氏には馬主になって以来の大望があり、それがこの菊花賞で実ったのである。

サンスポ【オーナー直撃】(2019.7.16)

武豊騎手でG1を……という願望はワールドプレミアに託したい』

https://race.sanspo.com/keiba/news/20190716/etc19071605030003-n1.html

 

大塚亮一さん、おめでとうございます。

また、友道師もおめでとうございます。かねてより友道師の、個々の馬に合わせた馬育てに敬意を表しているわたくしですが、ワールドプレミアを◎にも○にもできなかった非礼をお許しください。

そして、令和になってもタケユタカ

武豊氏には、「50歳じゃキツイよな」と思った非礼をおわびしたい。

 

わしゃ、おわびばっかりである <(_ _)>