【感想】 2018 阪神ジュベナイルフィリーズ

このレースには出ていなかったが、

肋骨を4本もやられて年内復帰は無理っぽかった和田騎手が早々に復帰。

肘を開放粉砕骨折した幸騎手はさすがにまだ加療中だが、

騎手の中には、落馬して頭蓋骨割っただけじゃなく

顔も骨折して目の神経管もやられて、

脳挫傷に脳脊髄液漏などなど、普通ならまだ絶対安静中のはずの怪我でも

二週間足らずで退院して馬に乗る人がいる。

騎手という職業人は、どっかおかしい。

ボクサー並みに脳震盪を繰り返しすぎて

痛みや恐怖を感じる神経がマヒしてるのかもしれない。

 

さて、阪神ジュベナイルフィリーズ

阪神ジュベナイルF(長いので以下、阪神JFと略す)の当日は、香港国際競走とかち合うことが多いので乗り替わりが増える。今年の阪神JFは、出走頭数18頭のうち、前走で騎乗した騎手からの乗り替わりは13頭で、お初の騎手に乗られた馬は11頭。川田岩田ルメデム兄のいない空き巣G1。まるでクラシックや秋天の裏開催である。

レースはほぼ人気順の決着だったが、デムーロ弟(Cデム)を信用できないと、どの馬も「帯に短し襷(たすき)に長し」に見えて買いづらいレースだったと思う。

 

1着 ダノンファンタジー(Cデムーロ

先行して勝ってきた馬で後方待機策。ゲート出が悪かったわけじゃない。デム弟はおそらく事前に、このレースを勝つための知恵をつけられていたのだろう。結果としてダノンファンタジーは高水準の自在脚型を印象づけた。

ダノンファンタジーの母ライフフォーセールは、現役時代、アルゼンチンでスプリントから中長距離までを8連勝した。いずれも3歳牝馬限定戦での勝利で、古馬混合戦では人気になりながら惨敗したが、G1を2勝、G2を3勝、G3を1勝の戦績を買われて2013年1月に繁殖として日本に来た。購買者はノーザンファーム。5代内にカロがいてスキーチャンプがいて、ハーツクライディープインパクトとの交配ではリファール4×5のクロスができる。ノーザンにとって申し分ない繁殖である。

ハーツクライとの初仔、キングカメハメハとの第ニ仔は思惑通りには走らなかったが、筆頭種牡馬のディープをつけて産まれたファンタジーは大成功。<デビュー前の評判が良すぎて、1歳下のハーツクライ牡馬はセレクトのセリで2億3千万の値がついた(競り落としたのはアドマイヤの近藤利一氏)>。

これまでのところ、初戦で敗れたグランアレグリア(こちらもノーザン産のディープインパクト牝馬。ただし馬主はサンデーレーシング)とは、どちらにも傷がつかないようにレースの使い分けがなされている。桜花賞で再び2頭があいまみえるかどうかはグランアレグリアの朝日杯の結果次第である(血統的にはグランアレグリアのほうがマイルに適性がありそうだ。朝日杯を勝てば春はNHKマイルに向けて調整することもありうる)。

 

2着 クロノジェネシス(北村友)

前2走とも勝利、且つ上がりの脚1位、特に前走は東京芝1800OP戦で32.5の脚を披露。この馬に「ステッキ(鞭)に頼らない騎手」が乗ってたらどうだったかな、と思わないでもない。

生き物の体は、同じ種であっても、同じようでいてちょっと違う。騎乗スタイルを見ていて、北村友の背中が気になった。肩や肩甲骨付近がコリやすそうだ。頸椎か胸椎のどこかにズレがあるか、クッションが弱いか硬いか……あるいは、肩甲骨ストレッチを熱心にやりすぎて逆に痛めてそのままか。腕を思い切り伸ばして追うことができないからステッキに頼っているように見えた。4コーナーでロスしたしないより、直線の追い負けが残念だった。

クロノジェネシスの血統は好みだ。父はバゴ、母父はクロフネ。なんとなく重め、の血が好きなのだ。記事を書くのに血統を調べていて、5歳上の姉がハピネスダンサーと知った。ハピネスダンサーは父メイショウサムソン。渋く走り続けて昨春引退した。こういう姉がいる妹にはがんばってもらいたい。

 

3着 ビーチサンバ(福永)

やっぱり牝馬の福永なんだなぁ……と、感心してる場合じゃなかった。フサイチエアデール、まだ繁殖やってたのか。ビーチサンバは20歳で産んだ仔だぞ。しかもまだ2頭も下にいるぞ。想像だが、関口房朗の焦げつきをエアデールで回収してるのか。やるな、ノーザン(←妄想なので本気にしないでね)。

 

4着 シェーングランツ武豊

鳴り物入りでフランスから繁殖入りしたスタセリタの3番仔。この馬も、2着のクロノと同じく前2走とも上がりの脚は1番。初戦こそ落としたが、2戦目は好位から長い脚、3戦目は追いこんでゴール前強襲と、もしこの馬にルメールが乗ってたらこれが一番人気になっていたんじゃなかろうか。

姉のソウルスターリングは17年の優駿牝馬を勝って以降、とんと名前を聞かなくなった。夏を越して、その年の秋3戦がさんざんだったのにJRA最優秀3歳牝馬を受賞しちゃったもんで、シラケた人が少なからずいそうだ。ルメール→Cデムーロルメール北村宏司の騎手リレーも国民感情としてはあまりよろしくなかったようだ。

妹のシェーングランツは、父がフランケルからディープインパクトに変わった分、軽さが持ち味になった。しかしこのレースでは、包まれてそれが発揮できなかった。2歳牝馬美浦から滋賀への直前輸送がこたえた可能性もある。

 

5着 プールヴィル(秋山)

出走馬中、調教はこの馬が一番良かった。今回は「外厩→1週前にJRA厩舎→本番」パターンの馬が少なかったから、馬券参加はできずとも各馬の調教を観るのが楽しかった。JRA所属の各調教師(厩舎)がどんな稽古をほどこすか、私にはそれを観るのも競馬の楽しみのひとつなのだ。

Mデム→浜中のあとの秋山起用で、なかなか渋いとこを突いてくるなと思った。プールヴィルは、初戦(中京1600・4着)と二戦目(中京1400・1着)に、前が詰まり横に寄られて進路を探してモタモタする不利があり、三戦目(京都1400・1着)でようやくスムーズに能力を発揮することができた。三戦目は鞍上浜中の好プレーでもあったが、その浜中はウオッカの仔、タニノミッションに騎乗する。リーディングでは浜中が上位だが、秋山は有力馬に乗ることはもちろん、騎乗数自体が少ないので本来の腕の優劣はつけがたい。不安は、秋山が先月のあの事故の加害者気分をどれだけ引きずってるか。引きずりすぎてると消極的な騎乗になるだろう。馬は1400にしか実績がないので、それより1F延びるマイル、それもG1での消極騎乗は初戦や二戦目と同じ(またはそれよりひどい)不利をこうむって2ケタ惨敗もあり得た。

しかし、プールヴィル秋山のレースぶりは悪くなかった。直線では気配を消して、内で追い出しのタイミングを計っていた。

池添がメイショウをプールヴィルの進路に強引に入れた時、秋山はまだゴーサインを出していなかった。メイショウ池添に前に入られなかったら上の着順に来れたか否かは判断が難しい。が、短距離というには微妙な、中途半端な距離で勝ってきた馬にしては、プールヴィルは我慢が利いて距離の融通が利くようだ。不利を受けた時、息や脚がぎりぎりであればそのまま沈んだろうが、プールヴィルはそのあと鞍上の気合いづけに応えてぐんと伸び、メイショウ池添を2馬身置き去りにした。

これでちょっとわかった。プールヴィルは意外にジリっぽい。ステッキを数発もらい、トップスピードに乗れたのはゴール前100m足らず。これは、不利を受けやすいマイナス要因であると同時に、少々距離が伸びても「乗り方ひとつで馬券になる馬」の特徴である。それに、今年の阪神JFで、先行しながら掲示板に残った馬はプールヴィルだけだ。

関係者は、これからどういう育て方をするのだろうか。当面の目標は桜花賞だろうが、その先、距離を伸ばして1800~2000mでもいける馬にするのか、短距離路線に向かわせるのか。いずれにしても、今回の当日馬体重426kg(前走より10kg増)、体重はこれを下限にしてもらいたい。体が小さいと、他馬の騎手の標的になりやすい。馬同士はそんな気が無くても、人間には小ささが弱点に見えて潰しにかかる。

小さいけれど地力がある馬。本賞金の上積みに焦って数使われることがないように願う。