【感想】 2019年 NHKマイルカップ

平成最後の国内G1春の天皇賞が、‘中小牧場の穴馬を探せ’派の期待を完膚なきまでに打ち砕いてわずか1週間。あれは時代替わりの刻印レースだったが、これ(NHKマイルC)も同じ意味で象徴的なレースだった。

外国人騎手の戦国時代到来。外国人 vs 日本人ではない。外国人 vs 外国人である。日本にはすでにデムルメというレギュラー外国人がいるのに、春季G1シーズンに合わせて身長165cm以上の20歳代が二人も短期免許で馬乗りに来た。二人はオーストラリア人。日本とは季節が真逆だから、日本の春クラシックにはいつでも乗りに来れる。交付基準を満たして、望めば毎年。

彼らの身元引受調教師はいずれもノーザンや社台と緊密な人物(堀師、池江師)で、契約馬主は、かたやノーザン吉田勝己氏の妻、かたや社台創業者・吉田善哉氏の妻(御年97歳!)。もしオーストラリアの二人がノーザン上層部のお眼鏡にかなえば、ノーザンの期待馬はデムルメの手から彼らに渡る――。

今年、デムルメはそろってどこかおかしかった。デムーロは、度重なる粗暴騎乗でノーザンの機嫌を損ねた(?)うえ、プライベートで何かがあったらしく、しょんぼりおとなしくなった。ルメールは春先まで、昨年の勢いはどこへやら、ポジション取りのミスや追い出しのタイミングずれが目立ち(どんな馬に乗っても上位人気になってしまうから、というのもある)、3月の頭には斜行で大事故のきっかけをつくってしまった。

デムーロは、見たとおり、気分感情が騎乗ぶりや成績に直結する。一方ルメールは、自制が利き、立ち居ふるまいが相対的に理性的である。しかしそのぶん無理をしているらしく(昨年の勝利数や周囲の評価にこだわるがあまりの焦りか)、その無理が大舞台での落差激しいラフプレーになってあらわれているようだ。 

 

今年のNHKマイルカップは、出走全馬が自身の持ち時計を更新したスピードレースになった。一応フルゲートだが、このレースは、実質ルメールデムーロ・川田の三人のマッチレースだった。川田はルメールをマークし、外枠のデムーロルメールと川田の二騎をマークしていた。

3コーナーでの位置取りはルメールが前から5頭目の内、そのすぐ斜め後ろ(外)に川田。ここで、それまで後方からルメールと川田を見るポジションだったデムーロが進出を開始、二頭ぶんほど間をあけてルメールと並ぶ形になった。

後のタックルにつながる事態は4コーナーから直線に向かうところで始まった

コーナーを回りながら馬を外に出してルメールに並びかけた川田に、デムーロが外からフタ。川田の前には福永トオヤリトセイト(ピンク帽に白メンコ)。これで川田の馬は直線の上り坂で馬群がバラけるのを待つしかなくなったが、川田はさすが、ここで腹をくくった。

問題はルメールルメールの前左(内)には秋山プールヴィル、前右(外)には内田ワイドファラオがいた。直線に向いて馬群がやや外に広がったとき、ルメールは馬を外に持ち出して内田ワイドファラオと福永トオヤの間を割ろうとした。が、直後に内田ワイドが外によれて福永トオヤに接触

進路がふさがったので、ルメールは仕方なくワイドファラオのよれた隙をつくべく、内に進路を変更。すると今度は、内田ワイドは内側に大きく馬を戻した(このときの内田の動きを見ると、意図的に進路を塞いでいるように見える)。

おそらくルメールは、発汗がひどく、かかってもいたアレグリアに分の悪さを感じとっていたのだろう。これは馬の個性からくる欠点なので、ジョッキーの責任ではない。が、馬は1.5倍の断トツ一番人気で、調教師は機嫌のいい時は天にも昇るようなウキウキぶりや鷹揚さを見せる藤沢和。その大風呂敷を本気にとった(?)馬主のサンデーレースホース(=社台+ノーザン)のグランアレグリアに賭ける期待も重々承知。結果、ルメールは重圧でキレた

川田が気の毒すぎる

直接的にはルメールだが、間接的には日本人騎手のルメール包囲網がダノン川田を馬券外にしたようなもんである。とはいえ、ルメールが日頃から川田にどれだけ脅威を感じているか明らかになったレースでもある。皐月賞で川田にタックルかましたのは、決してたまたまではないと誰の目にもはっきりした。

川田に脅威を感じているのはデムーロも同じだが、デムーロは情緒部分がルメールよりやや日本人寄りなので、川田に対しては他の日本人騎手と同じく ‘別の意味の脅威’ も感じているのだろう。デムーロがわざわざ川田に不利を仕掛けたという話は聞いたことがない。

それにしても今年のルメールは、昨年のデムーロ顔負けの危険騎乗の主人公になってしまった。ために、ヴィクトリアマイルはおろか、オークスもダービーも乗れない。大丈夫か、ルメール。家族も日本にいて、子どもは京都の外国人学校に通っているのに。家庭内で何かモメ事が発生していないことを祈る。

 

あと、個人的には、今回の降着劇の御沙汰と、ルメールが騎乗停止になったことによるクラシックでの騎乗馬乗り替わり御沙汰には、クサいクサいビジネスの匂いと怪訝な思いがぬぐえない。「配当に関わらない順位で繰り上がりと降着にしましょ、ルメールの騎乗停止は長くなっても無問題、新外国人のお手並みを拝見するいい機会」――胴元と一体化している競馬関係者の腹の中はどうせこんなもんである。勝負の世界などという甘いもんじゃない、広告代理店やマスコミを使ってどう持ち上げようと、騎手もJRA厩舎も馬券買いの平民もみんなビジネスの駒、経済動物なのである。

それでも競馬がある限り、競馬好きは馬券を買う。

‘廃用になった競走馬が可哀想でしょ’ と、馬の命を人質にしたビジネスも始まってるようだし、自分の業も含めて「あ~あ」という感じだ。