2019年 安田記念

ダービーがあった日の夜、職場を途中で抜ける許可をもらって、馬友らの残念会に出席した。実質参加は1時間足らずだったが、馬友の最年長の爺さんが元気に参席していたのが嬉しかった。

爺さんは60代。ステージⅢの癌だ。資材を各地に運ぶ仕事を長年続けた長距離トラック野郎。定年退職して、さあこれから趣味に生きるぞと自転車競技に参加し、ダムを巡ってダムカードを集め、娘さんが学生時代に趣味でやっていたサックスをもらって音楽教室に通い始めた1年後、体調を崩して入院した病院で癌が発覚した。

今どきの癌は日進月歩の治療技術の進展で十年前に比べて死ぬことは少ない。それに、20代や50代で罹患したら体がまだ若いぶん癌の進行や転移が早くて亡くなることが多いが、60代を越えると、若い世代より「癌に罹患してからそれが原因で亡くなるまでの期間」は長くなる。

とはいえ、やはり心配は心配だった。日本が景気のいいころに現役時代のほとんどを過ごせたのだから恵まれた世代ではあるが、爺さんが9人きょうだい(!)の末っ子で、中学を卒業してからずっと働いてきたのは仲間の皆が知るところ。しかもこの人、文章を書いてもしゃべっても面白い。正直、体になんらかの障害があって普通学校に進学できなかったり登校拒否等の理由以外の中卒で、‘自分を落として皆を笑わす話ができて、書く文も面白い人’ と出会ったのはこの爺さんが初めて。ある種、こういう年のとりかたをしたいと思わせる人だ。

爺さん、医者に病変箇所の切除手術を奨められてもそれを断り、放射線治療と服薬だけで粘っている。酒やタバコは当然禁止だが、ふと見ると飲んでたり吸ってたりする(量や本数は減っている)。爺さんを見てると、終末医療の在り方や、当事者になった時の過ぎ越し方を考えさせられる。

 

安田記念。久々にルメールが戻ってきた最初のG1。

ルメールの騎乗停止前と直後、爺さんは「ルメールがいると競馬がおもろない。おらんようなってちょうどいい」と言っていたが、オークスが終わると「ルメールおらんと軸が決まらん、早よ戻ってこいやアホルメール、なんで騎乗停止になんかなりよったんじゃ」に変わっていた(笑)。

そのルメールアーモンドアイは7枠14番。両サイドには川田ダノンプレミアムとMデムペルシアンナイトがいる。昼からは、適距離に戻った8番ステルヴィオが、レーン騎乗もあってどんどん人気になっていくだろう。アーモンドアイとダノン、ステルヴィオ、この3頭で決まってしまうこともありうる。

しかしそこは安田記念。何が来てもおかしくない。とりあえず、1枠の2頭と、血統上気になる5番インディチャンプ外国産馬の2頭、7番モズアスコット10番フィアーノロマーノがどこまでやれるか、結果を楽しみにしたい。

【反省と感想】 2019年 東京優駿(日本ダービー)

浜中とロジャーバローズの快挙に「すごい! おめでとう!」と一瞬快哉を叫びながら、次の刹那には「なんでなんでなんでなんで」と現実感を失った自分がいた。

この敗北は、思考停止から始まった

皐月賞の3頭は強い、皐月賞の3頭は強い、皐月賞の3頭は強い……。

なんのまじないだよ。暑いからってウワゴト垂れてんじゃねーよ

と、2日前の自分に言ってやりたい。

ヴェロックスは1着か2着、サートゥルは2着か3着、

ダノンキングリーは1着か2着か3着と予想したんだが、

自己嫌悪しかない

 

このレースを盛り上げた(?)一番の立役者は横山武史だ。「何としても逃げるだろうし、父が父だけに息子の逃げを邪魔する騎手はいない」とは思ったが、あんな決死の無茶逃げをするとは思わなかった。武史リオンリオンの1000m通過は57秒8。二番手追走の浜中バローズは58秒3くらいか(適当)。三番手以降は58秒7から59秒0前後だろうから(もっと適当)、三番手以降はこの馬場としては特段ハイペースではない。

大逃げを打つ馬がいて、二番手追走だけれど実質単騎逃げのような馬がいて、その他大勢は後ろで列なして様子見。このパターン、2000m以上戦で何度も見たことがある。こういうとき、たいてい後続は間に合わない。その他大勢の先頭、つまり三番手の騎手が二番手との差を詰めに行って初めてレースが動き出す。四番手から後ろは、三番手の人馬が視界を遮るので先頭との距離がわからないし、たとえ怪しんでも自分の馬の脚がタレるのをおそれてヘタに動けない。なにより今回、同じ集団の後方には圧倒的1番人気のサートゥルナ―リアが控えていた。

令和最初のダービーで道中三番手につけていたのは池添騎乗のサトノルークス。池添は自分の馬のリズムを壊さないように乗ったのだろうが、結果的に波乱のフォロー役になった。

 

ダービージョッキー浜中の二人の恩師と競馬の世界にひきいれた爺ちゃん。

競馬マスコミはまたも、これをさかんにエエ話として紹介しだした。しかしそのマスコミの姿勢、3年前の浜中イメージダウン劇を引き起こした原因のひとつではなかったろうか。

2016年2月、浜中は落馬負傷して1ヶ月の戦線離脱を余儀なくされた。前年の2015年、4年ぶりに年間100勝台から陥落した浜中に強い焦りが生じなかったはずはない。それまで浜中はイケメンで優秀な騎手として競馬マスコミに持ち上げられ、プロフィールとして二人の恩師や爺ちゃんとの関係がクローズアップされた。彼自身もインタビューやコラムなどで頻繁に「恩返し」を口にしていた(インタビュアーの誘導やライターによる文言追加もあっただろう)。

2016年11月と2017年3月の重賞での浜中の酷い斜行、あれは浜中が、周囲に期待される「勝てる騎手イメージ」と「恩返し人情談の継続」に押しつぶされた結果ではなかったか。どんなに酷い加害者になろうと、落馬負傷者が出ない限り制裁は騎手だけで、馬は降着にならない奇妙なルール・裁決が悪魔の最後の一押しになり、大事なレースで反則を重ねたように思う(レーヌミノル陣営がその後、彼を降ろしたのは真っ当な判断だった)。がんばってますアピールと人情談さえあれば許してもらえる、そんな計算と甘えもあったかもしれない。

当時の浜中は満28歳目前と28歳直後。以来、浜中はマスコミの手のひら返しはもちろん、競馬ファン(私も含めて)から白い目で見られ、一部からは粘着とも思える誹謗を受け続けることになった。だがしかし。人の心の中は見えないが、もし心の中と行状をつぶさに記録するナニカがあったとして、「生まれて今日まで自己利益のためのズルを一切したことがない」と証拠開示の上で胸を張れる人間がどれほどいるだろうか。賭け金を背負い、スポットライトを浴びる立場の人間だからこそ厳しい批判にさらされるのがギャンブル前線を担う者(駒とも言う)の宿命だが、彼に課せられた負の烙印は少々深すぎた。

煽るのが仕事と割り切るマスコミ人に理性や節度、見識を求めるのは、サルに哲学を求めるようなものだ。若い騎手たちは、美談やゴシップネタになりそうなものに群がりストーリーを創って自らのエサにする狡猾なサルどもの餌食になってはいけない。美浦でも栗東でも、先輩騎手がマスコミ関係者に踊らされないためのメンタル防御術を若手にレクチャーしてくれることを願う。

あらためて、

30歳、濱中 俊。無心の勝利、おめでとう。

 

2着ダノンキングリーは惜しかったし、3着ヴェロックスは残念だった。

戸崎は、不利の加害者になることを極力避けようとするから、ときどきひどく消極的に見える。そこが歯がゆかいのだが、やっぱり凄腕。直線追い出しにかかってからのダノンの伸びには目を見張るものがあった。戸崎は人柄も良さそうだ。善人 of 善人に見える。JRA移籍当時より顔もまた良くなってるのが、彼が良い過ぎ越し方をしてる(=業を残さない)証明のように思う。怪我に気をつけて、近いうちに日本ダービー騎手の称号を手にしてほしい。

川田は、仕掛け遅れを悔やんだろう。敵をサートゥルナ―リア1頭に絞ってしまった。暴れ騎乗を復活させて追い込んだが、一度は前に出たサートゥルを差し返すのが精いっぱい。それよりあの追い込みを見て、私はヴェロックスのダメージが心配になった。

 

さて、4着に敗れたサートゥルナ―リアとダミアン・レーン

ロードカナロア産駒ということで敗因に距離適性が囁かれているが、気性の問題をさておくと、適性はダノンキングリーと同じくらいか、むしろやや長めと見る。今回はレーン騎手の夏バテと「アウェイの自覚」による緊張、サートゥルのダービー熱気パニックが主因ではなかろうか

個別のレースで上がり1位になったことはあっても上がり33秒台を出したことがないのは、キレで勝負する馬ではないからだろう。また、サートゥルナ―リアが輸送そのものにあまり強くない可能性、生来は春クラシックに向けて成長のピークが来る馬ではない可能性も、ついでに書き留めておく。

 

浜中ロジャーバローズほどではないが、勝浦ニシノデイジーの健闘には驚いた。ニシノデイジーの東京コース実績(1.0.0.0)では、「東京コースを得意とする」と断定するには心もとない。しかも騎手は勝浦だ。「若いのに自分で考えて乗れる」と美浦の調教師やTMに絶賛されたハタチそこそこの溌剌とした勝浦ではなく、馬と手が合う合わないで極端に成績が上下する、気難しそうなガテン系職人顔に変貌した勝浦だ。

勝浦より思考の柔軟性と判断力に富み、追える若手を乗せたほうが、ニシノデイジーのキャリア的には良かった。しかし馬主の西山氏は、脅しと励ましの両方を駆使して、結局ダービーまで勝浦を乗せ続けた。勝浦は、明け3歳以降のニシノデイジーとの3戦で何を学んだだろうか。彼には、40の手習いよろしく死ぬほど頭を使い、馬の個性と脚質ごとの対応力が上がった(=立ち回りの引き出しが増えた)ことを期待する。

 

ドンケツはデムーロ騎乗のアドマイヤジャスタ。

レース前検量の馬体重はマイナス16㎏、絞ったとしても減り過ぎで、よほど体調が悪かったのだろう。デムーロは追うのをやめている。

ダービーの次のレース、最終の目黒記念に出走した同馬主同厩舎の6歳馬は左第1指関節を脱臼し、予後不良と診断されて安楽死の処置がとられた。どうも2頭とも、熱中症にかかっていた可能性が高い。

デムーロは、短期免許でその場限りの乗り方をしていた頃とは大違い、JRA所属騎手になってから自分の乗り馬に優しくなった。アドマイヤジャスタは父系からも母系からも晩成寄りだ。ミルコ、ジャスタに未来を残してくれてありがとう

 

 

2019年 東京優駿(日本ダービー)

4頭出走のディープインパクト産駒が1番から8番までの内側にいて、

計5頭出走のキンカメ産駒とジャスタウェイ産駒が10番から14番にお詰め合わせ的にぎっしり。

「サートゥルナ―リア(父カナロア)とダノンキングリー(父ディープ)が問題なく力を発揮できたとして、残りの馬券1枠には何が来るか」がこのレースの焦点だろう。

 

ノーザン外厩での調整は、

しがらきが4番サトノルークス、6番サートゥルナ―リア、10番クラージュゲリエ、12番アドマイヤジャスタ。

天栄が7番ダノンキングリーのみ。

サトノはデビュー以来、うまくレース間隔をあけられていて、関係者の按配の巧さを感じる。ジャスタは母系の晩成性にもかかわらず早い時期のデビューで、欲望欲求を隠さない馬主さんの性格がよく表れた騎手起用と使われ方をしている。この2頭は能力的に近いが、最後かならず詰めてくる点とMデムーロ起用で今回はアドマイヤジャスタに軍配、かもしれない。にしても、Kさん、常に何かの飢餓状態にあるような馬主さんだな。

残るノーザン外厩組の一頭、クラージュゲリエは私には掴みどころのない馬だ。スローペースになったレースで剛腕外国人を乗せれば勝てるのだが、一線級とはどうも差がある。皐月賞でマジシャン横山典が技を使ったせいで力量が余計わからなくなった。

 

ノーザン外厩不使用組やトレセン在厩組の中では、ヴェロックスが頭ふたつ抜けている。ただゲート両サイドの騎手がまずい。ヴェロックス川田の左隣にはMデムーロ、右隣には福永。道中、デムーロは川田の後ろから虎視眈々と動向を探るだろうし、福永はマーク屋や壁役になったときガンコにいやらしい競馬をする。不利を呼ぶ男、川田。ヴェロックスはバテない上にスピードの持続力が高い。しかし左回りの不安がささやかれている上、皐月と中間調教と輸送の疲れが少しでも影を落としていると、思い通りのスパートができなかった時にエンジンが不発になることはありうる

 

にもかかわらず、わたしは13番ヴェロックスに期待したい。つまり、「このレースは荒れない」と見る(願望100%)。荒れたとしても12番アドマイヤジャスタか14番ランフォザローゼスがもしかして食い込む程度。そのぐらい、皐月の上位は力上位(と信じる)。

 

弥生賞が終わった時点では、ダービーの穴候補としてシュヴァルツリーゼを考えていた。

しかし皐月賞のパトロールビデオのヴェロックスとサートゥルナ―リアの馬体接触シーン、その後方で左右に大きく踊りながら橙帽にぶつかり桃帽の進路を邪魔するシュヴァルツリーゼを見て、微笑ましく思いながらも頭を抱えた。左回りに変われば走りもスムーズになるったって、ありゃ根本原因は馬の体幹と腰回りの未熟さだ。皐月からダービーまでの期間で幼いフィジカルが急に良くなるとは考えにくい。  

【感想】 2019年 優駿牝馬(オークス)

 結果知って、いささか後悔。

このレース、ろくに検討する時間が無かったからケンしたが、当日の朝アップした記事の2頭の複勝くらい買えばよかった。ウィクトーリアは4着だったけど、素質馬の一番手に挙げたレンブーケドールが12番人気の2着、複勝で1400円もついてる( "・ω・゛)

お金の神様、いい子にしてるからもう一度チャンスください……(´;ω;`)

 

「従来のレコードを大幅更新 !」の大安売りは、ジャパンカップの前だけでなく、ダービー前にも行われるようになったようだ。これでもしJRAが、本気で「サラブレッドが進化した!もっと速く走れるようになった!」とやったら、JRAはアホの極みだ。時計なんぞトラック(コースの地盤)コンディションでどうにでもなる。

ノーザンさんとJRAの造園課は一体だ(と思う)。5月の造園(高速馬場化)は7月の牧場見学とセレクトセールに向け、11月の造園(高速馬場化)は海外のマスコミ・競馬関係者に向け、ノーザンさんが売り出したい種牡馬の仔や繁殖牝馬の仔をアピールするいい機会だ。

JRAを管轄する省庁は農林水産省で、監督は「生産局畜産部競馬監督課」という長い名前の部課が行っている。が、役人だから、経営委員会の取り決め一切はノーザンさん(に、ちょこっと社台さん)の提案と舵取りにお任せしてる可能性が高い。そこで方針に異を唱える馬産家経営委員もいるだろうが、興業的成功を「ノーザン+社台」に依存している以上、羽虫の抵抗にしかならない。

吉田一族の長男さん(社台)と次男さん(ノーザン)、これの力関係が逆転したのはディープインパクトの登場が大きい。リーマンショックで連鎖的に経済パニックを起こした日本で、次世代の競馬熱と投機欲を継続させたのはディープインパクト産駒への期待だ。ノーザンにとってはもちろん、JRAにとっても、ディープインパクトは大救世主なのである。

今年のオークスでは、そのディープインパクト産駒がワンツーを決めた。ディープが種牡馬入りして十年以上経っているが、上級産駒の特徴、クッションが利きすぎる高速馬場でも股関節や人の体で言う足首や指を痛めない柔軟性と強靭さがいまだ衰えず遺伝されているのがすごい。

 

下記に着順ごとの各馬雑感を書いてみる。父馬名と生産牧場名の半角カタカナが、環境依存のために読めなかったらごめんなさい。

 

1着 ラヴズオンリーユー(ディープインパクト・ノーザン/Mデムーロ

前に行きたがる馬や、前に行くことでしか結果を出していない馬たちの怒涛の先導を眺めながら、Mデムーロ、「してやったり」。最少キャリアの3戦3勝、堂々の1番人気で見事に勝利。しかし馬主さんがDMMじゃなかったら、2番人気か3番人気だったんじゃなかろうか。「忘れな草賞を好タイムで勝利、血統的にはリアルスティールの全妹で、3戦全てで上がり1位、外厩はしがらきを使用」――買い材料は多いが、重賞未経験で多頭数競馬も初めて。外厩で左回り対策を十分に施されていたとしてもキャリアに不安があった。

DMMは社長さん以下みんなが山師(詐欺師という意味じゃなく)っぽい。早々に1番人気になったのは、彼ら彼女らが1人1千万円~数百万円単位でラヴズの単勝を買い、それを見た外部の競馬投資筋も資金投入、一般ファンもひっぱられ…と想像する。

結果を伏せた状態で各馬の調教を見てみたが、ラヴズオンリーユーの動きは確かに良かった。それに1週前はMデムーロが騎乗して特早時計を出していた。若駒の、特に牝馬に限っては、馬任せで軽快に飛ばす調教スタイルを私は良しとしない。だが、どうもこの馬に関して、矢作調教師は「行く気に任せた方が、馬が満足して本番で結果が出る」と判断したようだ。中にはそれがベター or ベストな馬もいると勉強になった。

過去のマスコミインタビューを思い起こすに、矢作師も相当に山師メンタルがお強い方である。そこにヒャッハースイッチがすぐオンになるMデムーロと、生粋の山師メンタルの馬主DMM。このトロイカ、悪魔的だ。馬が違っても、今後も要注意の組み合わせだろう。

 

2着 カレンブーケドール(ディープインパクト・社台/津村)

軸馬のヒモにしていた人は多かろうが、単複人気が無かったのは、ただ1頭の中2W馬であることと、騎手ツムラが主な要因だったか。しかしそういう馬が、前目で粘って早め先頭、結果的に勝ち馬の末脚に屈したが、僅差の2着でゴールするのだから競馬は面白い。

2勝目が遅かったのは、力がありながら何かが噛み合わなかったからだ。が、前走から騎乗の津村、騎手生命を賭けて真剣にこの馬とレースに向き合ったようだ。リーディング下位ではないが、あまり芝レースに乗らないので知名度微妙、成績も微妙な騎手とあって、今回の2着に対し、「馬に助けられた」「もっとうまい騎手が乗ったら勝ってた」との声がある。もしルメールが騎乗停止期間中でなく、空いたレーン騎手にカレンの手綱を依頼していたら勝っていたかもしれない。けれど、このレースで、2コーナーを回って向こう正面に入るあたりでフェアリーポルカをかわして馬を外に出したのは津村であり、それは間違いなく彼のファインプレーだ。直線で前に立つタイミングが早すぎて勝ち馬に差されたのは事実だが、敵はラヴズオンリーユーだけではなかった。津村は、自分ができることを精いっぱいやったと思う。

大一番で津村継続騎乗を決めた国枝師、馬主の鈴木隆司氏に感謝したい。古い競馬ファンの私が観たいのはこういう競馬だ。

レンブーケドールの母父はストームキャット系のスキャットダディ。勝ち馬のラヴズオンリーユーの母父はストームキャットだから、この2頭は血統的に近い。

母系を見ると、ラヴズのMr.Proは3代、Crimson Satanは5代にいる。一方、カレンのMr.Proは4代5代6代にひとつずつ、Crimson Satanは母父がストームキャットの曾孫だけあって遠くの8代にいるが、その遠さを補うように、Crimson Satanの父Spy Songや祖父Balladierを6代7代に配してある。ただ、ラヴズの血量には、それらの大元 Black Toneyから出た別の流れ、Blue Larkspur(マームードと並んでSSに濃い血脈だ)が多いので、血統的闘争心という点でカレンはラヴズに一歩譲るかもしれない。

しかしながら、ラヴズの母系にさらにChop Chopやミエスクという強みがあるように、カレンの母系にはHawaiiのクロス(本馬から見て6×6)がある。Hawaiiは、若駒のうちこそマイラーだったが、古馬になりアメリカに渡ったあとは11ハロン芝のマンノウォーステークスを制したように、距離の融通が利く馬になっている。

……客観的に見ると、母系3代に名牝ミエスクが鎮座している(2代母がキングマンボの全妹なんだから当たり前か)ラヴズに比べて明らかに分が悪い。だが、そこを敢えて、将来に期待!と強弁させていただく。

 

3着 クロノジェネシス(バゴ・ノーザン/北村友)青文字は 05.23 12:20修正部分

GⅠで勝ちきれないのは何故なのか。調教でもレースでも、多少のイレコミはあれど騎乗者の指示に従って素直に走るし、踏ん張りも利く。父バゴと母父クロフネその父フレンチ)の評価を同時に高めてくれた馬である。ラグタイムガールやレッドゴッドにお祈りすればG1勝てると言うのなら、わしゃなんぼでも祈る。

 

4着 ウィクトーリア(ヴィクトワールピサ・ノーザン/戸崎)

赤松賞後のまとまった休養で馬が変わった。今回の敗因は位置取りが後ろ過ぎたことだろう。ここまで前が止まらないとは、戸崎騎手、予想外だったに違いない(直線で内に入れたことの良し悪しは正直わからない)。

調教はかなり変則的だった。他馬が調教場にほとんどいない曜日に、ゆったり軽めに走らせている。疲れが出やすい上に、他馬を怖がる面があるのかもしれない。タフなレースだったのでまずは休養、そうして次走は馬の状態を優先して決めてもらいたい。

 

5着 ダノンファンタジー(ディープインパクト・ノーザン/川田)

レース映像で、4コーナーを回るところから直線~ゴールまでの8番ダノンファンタジー(青帽)と7番の馬(青帽)の位置関係と挙動を見ていただきたい。パトロールビデオじゃなくても判るくらいにダノンファンタジーは度々7番の挙動に邪魔されている。川田、きみは加害にしても被害にしても不利を呼ぶ男なのか。

ダノンファンタジーの距離適性は、よくわからない。問題はレースでかかるところがある点で、それがほどよく解消されれば1400mでも2200mでもそれなりに走ってしまいそうだ。スプリント~マイルに特化させるのが一番工夫が要らない選択だが、中距離の可能性も捨てがたい。

秋からどの路線を選ぶにせよ、6月デビュー以降、2016年産牝馬戦線を牽引してきた1頭である。骨休み後の成長ぶりを楽しみにしたい。

 

6着 シャドウディーヴァ(ハーツクライ・ノーザン/岩田)

父系母系ともに晩成寄りのせいか勝ち味に遅い。

母系の奥にスカイマスターのクロスがあり、スカイマスターの母Disciplinerのクロスは本馬から見て7×7×8。このクロスがあることで本質はスプリンター??と思わせるが、新馬からほとんどのレースで2000mを使われている。また、3歳牝馬限定とはいえ2400mでこれだけ走った以上、中距離~中長距離馬と見るのが妥当なのだろう。ノーザン生産馬なので、幼駒のうちにプラスビタール・スピード検査(ミオスタチン遺伝子型で距離適性を測る)を受け、そこで中距離型と判定された可能性はある。兄姉は短距離でしか勝ち鞍を挙げてないのに、父馬がハーツクライに変わっただけで濃いめに入ってるナタルマのクロスが干渉発動したのだろうか。よくわからん。

オークスでの掲示板下入着は、岩田の川田マークも功を奏した。川田は「各局面でいかにして好ポジションをとるか」をいつも意識して乗っている騎手だ。失敗することもあるが、ナイスポジションで追い出すことが多い。だから他の騎手にマークされやすく、不利の加害被害の対象者になりやすい。今回の岩田は、ゴンベ(川田)が撒いた種をほじくるカラスかストーカーみたいだった。

  

7着 シェーングランツ(ディープインパクト・社台/武豊

482kgでデビューして桜花賞時は462kg。そしてオークスでは458kg。どんどん体重減っている。この牝系、もしかしたら競走よりも繁殖向きなのかもしれない。

 

8着 アクアミラビリス(ヴィクトワールピサ・社台/藤岡佑)

出走馬中、最少体重の416kg。前走より8kg太って416kg。それで桜花賞13着(勝ち馬との着差1.9秒)からよく巻き返した。気力で走ってる感じがして切ない。この先も無事に。

 

9着 コントラチェック(ディープインパクト・ノーザン/レーン)

中間の調教は、藤沢和厩舎のいつもにも増して「普段の簡単な乗り運動」程度。どう贔屓目に見ても、出走を前提とした調整に思えない。念のため、菜の花賞とフラワーカップでの中間調教をチェックしてみた。どちらも10日か11日前には南Wで6ハロンをちゃんと追い、直前は菜の花が坂路、フラワーカップが南Wでしまいの脚を確認していた。ところがオークス前は、10日前と1週前が南Wの助手乗りで馬なりハロン、5日前に坂路でやはり馬なり 61.0-45.0-29.4-14.4。マシだったのは直前追い切りのみで、

南W 稍 杉原 69.8-53.5-39.7-12.7

藤沢和師は、ペルーサがいなくなってから、鬱か認知症の初期症状かと疑いたくなる采配を続けたことがあった。近2、3年はちょっと復活した様子だったが、ただの症状の波だったのだろうか。気鋭のリーディングトレーナーだった頃を知る身としては、病気などではまったくなく、単に馬の状態がよくなかったか、天の声()と行き違いがあってスネた程度であることを願う。

 

10着 フィリアプーラ(ハービンジャー・ノーザン/丸山)

持ち時計を基準にすると、ブービーでもおかしくなかった。

あきらめない気持ちは母系祖母のラトラヴィアータ譲りのようだ。

 

11着 エールヴォア(ヴィクトワールピサ・白老/松山)

中間は念入りに調教回数を重ね、特に1週前調教では長目を追われ、終い4ハロンで速い時計を計時した。しかし、桜花賞を前走から中2週で臨んだ3歳牝馬には、疲れを十分癒す暇のないこの念入りさが仇になったのではないだろうか。

スピード競馬に対応できる力がなかったと切り捨てるのは簡単だ。ヴィクトワールピサの仔は大体が性根が生真面目。裏を返せば気持ちの余裕を失いやすい。気持ちの余裕は成長を促すから、その余裕がないということは伸びしろを失うことにつながる。しかも、父と異なり、産駒たちは成長曲線が晩成傾向に出やすいようだ。

陣営はエールヴォアの適性を測りかねているようだが、試すより先に、休ませることリラックスさせることを優先してほしい。

 

12着 シゲルピンクダイヤ(ダイワメジャー・天羽/和田)

前2走より前につけたのは、馬がついていってしまったからだろうか。私の観た映像(YouTubeにあがってたやつ)ではわからなかったが、ゲートに入る直前までシゲルピンクダイヤはイレこんでひどく暴れていたらしい。初の長距離輸送に初の左回り、大勢の視線が身に刺さるスタンド前発走と4ハロンの距離延長、厳しいペース、5つの難条件が重なった上にイレコミによる消耗が加わったのだから、この着順着差(2秒4)も致し方ない。問題はこのあと。どれだけ休ませるか、秋はどこの何というレースを目標にするか。きっちり休んだあと関西で開催の1800m以下のレースに出走するなら、緒戦と2戦目は狙い目かもしれない。

 

13着 ウインゼノビア(スクリーンヒーロー・村本/松岡)

2000年前後のウインには好感を持っていた。きっかけが何だったかは忘れた。

スクリーンヒーローは好きである。フレンチデピュティも好きである。

したがって、名前と父・母父名だけでウインゼノビアが気になって仕方がない。

現状では13着は妥当な着順。がんばったほうだ。兄姉がみんな勝ち鞍はダートで挙げているのに、この馬だけ芝。種付け料が高くなってからスクリーンヒーローをつけて産まれた子である。母のゴシップクイーンは社台ファームの生産馬。どの馬をつけてもそこそこ走る仔を出す仔出しの良さは、産まれてから成駒になるまでの飼育環境の良さから来ているのだろう。

ウインゼノビアには、「各種クロスが濃い」以外の特徴がない。たくさんいる凡庸な馬の1頭にも見える。が、走る姿はけっこう素軽い。これまでにレースで乗った騎手は松岡・戸崎・松若。できれば今後もこの3人の中から起用してほしい。使い方もマイネルコスモのような会員配当優先でないほうがありがたい。1ランク上に馬が変わる可能性がないとは言えない。

 

14着 ジョディ―(ダイワメジャー・小浜/武藤)

昔のテレビ馬のようだった。武藤雅はいい騎手だ。2000m以下のレースで雅で固定なら場内を沸かせる馬になりそうだ。但しその前に、馬に4ヶ月以上のリセット期間を置いてやるのが条件だ。

 

15着 ビーチサンバ(クロフネ・ノーザン/福永)

びっくりした。

 

16着 フェアリーポルカ(ルーラーシップ・ノーザン/幸)

年末デビューから、高望みするように上級レースに使われてきた。距離が長い云々の前に馬が疲れていたようだ。

 

17着 メイショウショウブ(ダイワメジャー・三嶋/池添)

メイショウテンゲン等と同じく、メイショウさんの預託繁殖から産まれた仔である。

勝馬だが、牡馬に混じって、デイリー杯2歳Sとニュージーランドトライアルでほとんど着差なしの2着に食い込んだ。距離適性は広くなさそうだが、適距離かつ差し比べにならないレースであれば、世代上位の力を発揮できるようだ。レースごとに池添の父ちゃんの気合いの入り具合も想像できて微笑ましい。

だが、今回の調整は、人間側の気合いが入りすぎていささかマズかった。1週前(CW)と直前追い切り(坂路)、その2回とも強く追ってしまったのである。メイショウショウブの過去のレース前調教を調べると、直前追い切りは軽めにとどめている。ジョッキーのレース後コメントにあるように「初めてのスタンド前発走でイレこんだ」ことも大きいだろうが、その前から馬の体力が削られていたのではないかと思う。

追記:メイショウショウブが直前追い切りでパッパカ駆けたのは、騎乗した池添が追ったからではなく、自分からぐんぐん行っちゃったのだそうだ(ソースは先週木曜発行のスポニチ)。池添親子の気合いが入りすぎたためではないと、ここに訂正させていただきます。自分でカッカしてたのね、ショウブちゃん。 2019.05.23 12:28

 

18着 ノーワン(ハーツクライ・飛野/坂井)

 ノーワン、「他に替えがたい」 。いい名前である。しかし未勝利勝ち後、フィリーズを勝っちゃったから欲が出た。凱旋門賞にも登録しているらしい。いやーそりゃー英仏に適した血統ではあるけどさ…。ルメール、さっさとフランスで厩舎開業しろよ、そうしたら日本人、ノーザン関係者以外もあんたんとこに馬預けてデビューさせるからよ。この馬の馬主だけじゃなく、日本にはそうしたい馬主、たぶんいっぱいいるよ。

 

2019年 優駿牝馬(オークス)

このところ馬柱や調教を確認する時間がとれない。だからオークスもレース後感想だけにとどめるのが無難なのだが、そこはやはりクラシックの魔力。形だけでも参加したい。というわけで、とりいそぎのアップ。

どうせ、このごろの芝G1は、何も考えないほうが当たる。下手な考え休むに似たり――というより、「下手な考え墓穴掘り」と言ったほうがいいかもしれない。

 

今回のノーザン外厩

2番 クロノジェネシス(しがらき)

3番 コントラチェック(天栄)

12番 ウィクトーリア(天栄)

13番 ラヴズオンリーユー(しがらき)

16番 ビーチサンバ(しがらき)

18番 フィリアプーラ(天栄)

 

上記ノーザン外厩組では、12番ウィクトーリアに妙味を感じる。

今どうこうでなく「注目の素質馬」的な目線で見れば、非ノーザン(シャダイだけど)の10番カレンブーケドールをはじめとしていろいろいそうだし、フレンチの血を3代内に持ってる子らも気になるが、それらはレース後感想記事に書くことにする。

 

【感想】 2019年 NHKマイルカップ

平成最後の国内G1春の天皇賞が、‘中小牧場の穴馬を探せ’派の期待を完膚なきまでに打ち砕いてわずか1週間。あれは時代替わりの刻印レースだったが、これ(NHKマイルC)も同じ意味で象徴的なレースだった。

外国人騎手の戦国時代到来。外国人 vs 日本人ではない。外国人 vs 外国人である。日本にはすでにデムルメというレギュラー外国人がいるのに、春季G1シーズンに合わせて身長165cm以上の20歳代が二人も短期免許で馬乗りに来た。二人はオーストラリア人。日本とは季節が真逆だから、日本の春クラシックにはいつでも乗りに来れる。交付基準を満たして、望めば毎年。

彼らの身元引受調教師はいずれもノーザンや社台と緊密な人物(堀師、池江師)で、契約馬主は、かたやノーザン吉田勝己氏の妻、かたや社台創業者・吉田善哉氏の妻(御年97歳!)。もしオーストラリアの二人がノーザン上層部のお眼鏡にかなえば、ノーザンの期待馬はデムルメの手から彼らに渡る――。

今年、デムルメはそろってどこかおかしかった。デムーロは、度重なる粗暴騎乗でノーザンの機嫌を損ねた(?)うえ、プライベートで何かがあったらしく、しょんぼりおとなしくなった。ルメールは春先まで、昨年の勢いはどこへやら、ポジション取りのミスや追い出しのタイミングずれが目立ち(どんな馬に乗っても上位人気になってしまうから、というのもある)、3月の頭には斜行で大事故のきっかけをつくってしまった。

デムーロは、見たとおり、気分感情が騎乗ぶりや成績に直結する。一方ルメールは、自制が利き、立ち居ふるまいが相対的に理性的である。しかしそのぶん無理をしているらしく(昨年の勝利数や周囲の評価にこだわるがあまりの焦りか)、その無理が大舞台での落差激しいラフプレーになってあらわれているようだ。 

 

今年のNHKマイルカップは、出走全馬が自身の持ち時計を更新したスピードレースになった。一応フルゲートだが、このレースは、実質ルメールデムーロ・川田の三人のマッチレースだった。川田はルメールをマークし、外枠のデムーロルメールと川田の二騎をマークしていた。

3コーナーでの位置取りはルメールが前から5頭目の内、そのすぐ斜め後ろ(外)に川田。ここで、それまで後方からルメールと川田を見るポジションだったデムーロが進出を開始、二頭ぶんほど間をあけてルメールと並ぶ形になった。

後のタックルにつながる事態は4コーナーから直線に向かうところで始まった

コーナーを回りながら馬を外に出してルメールに並びかけた川田に、デムーロが外からフタ。川田の前には福永トオヤリトセイト(ピンク帽に白メンコ)。これで川田の馬は直線の上り坂で馬群がバラけるのを待つしかなくなったが、川田はさすが、ここで腹をくくった。

問題はルメールルメールの前左(内)には秋山プールヴィル、前右(外)には内田ワイドファラオがいた。直線に向いて馬群がやや外に広がったとき、ルメールは馬を外に持ち出して内田ワイドファラオと福永トオヤの間を割ろうとした。が、直後に内田ワイドが外によれて福永トオヤに接触

進路がふさがったので、ルメールは仕方なくワイドファラオのよれた隙をつくべく、内に進路を変更。すると今度は、内田ワイドは内側に大きく馬を戻した(このときの内田の動きを見ると、意図的に進路を塞いでいるように見える)。

おそらくルメールは、発汗がひどく、かかってもいたアレグリアに分の悪さを感じとっていたのだろう。これは馬の個性からくる欠点なので、ジョッキーの責任ではない。が、馬は1.5倍の断トツ一番人気で、調教師は機嫌のいい時は天にも昇るようなウキウキぶりや鷹揚さを見せる藤沢和。その大風呂敷を本気にとった(?)馬主のサンデーレースホース(=社台+ノーザン)のグランアレグリアに賭ける期待も重々承知。結果、ルメールは重圧でキレた

川田が気の毒すぎる

直接的にはルメールだが、間接的には日本人騎手のルメール包囲網がダノン川田を馬券外にしたようなもんである。とはいえ、ルメールが日頃から川田にどれだけ脅威を感じているか明らかになったレースでもある。皐月賞で川田にタックルかましたのは、決してたまたまではないと誰の目にもはっきりした。

川田に脅威を感じているのはデムーロも同じだが、デムーロは情緒部分がルメールよりやや日本人寄りなので、川田に対しては他の日本人騎手と同じく ‘別の意味の脅威’ も感じているのだろう。デムーロがわざわざ川田に不利を仕掛けたという話は聞いたことがない。

それにしても今年のルメールは、昨年のデムーロ顔負けの危険騎乗の主人公になってしまった。ために、ヴィクトリアマイルはおろか、オークスもダービーも乗れない。大丈夫か、ルメール。家族も日本にいて、子どもは京都の外国人学校に通っているのに。家庭内で何かモメ事が発生していないことを祈る。

 

あと、個人的には、今回の降着劇の御沙汰と、ルメールが騎乗停止になったことによるクラシックでの騎乗馬乗り替わり御沙汰には、クサいクサいビジネスの匂いと怪訝な思いがぬぐえない。「配当に関わらない順位で繰り上がりと降着にしましょ、ルメールの騎乗停止は長くなっても無問題、新外国人のお手並みを拝見するいい機会」――胴元と一体化している競馬関係者の腹の中はどうせこんなもんである。勝負の世界などという甘いもんじゃない、広告代理店やマスコミを使ってどう持ち上げようと、騎手もJRA厩舎も馬券買いの平民もみんなビジネスの駒、経済動物なのである。

それでも競馬がある限り、競馬好きは馬券を買う。

‘廃用になった競走馬が可哀想でしょ’ と、馬の命を人質にしたビジネスも始まってるようだし、自分の業も含めて「あ~あ」という感じだ。 

 

シャケトラが死んだ

突然すぎて現実感がない。

つい先日、ウオッカが15歳の誕生日を迎える直前に亡くなったばかり。シャケトラ安楽死の報の後にはヒシアマゾン死去のニュースが走った。

ヒシアマゾンは満28歳での死去である。誕生日は3月26日だからちゃんと満年齢を迎えていた。それに、馬の28歳は大往生と言っていい。アマゾンの仔は2011年産が最後なので、馬主の阿部雅一郎氏は、「繁殖としてのアマゾンは20歳で引退、21歳からは功労馬として余生を送る」選択をしてくださったようだ。預託されていたアメリカのポログリーンステーブルというところも、アマゾンを大切にしてくれていたことは想像に難くない。だから、アマゾンについては素直に冥福を祈ることができる。

ところが、生半ばと思える馬の冥福を祈ことは、私には難しい

特に、何とか未然に防げたのではないかと思える病死や事故死、好きな馬や期待した馬の死は、がくりと自分の中の一部が欠け落ちたように感じてしまう。

シャケトラはマンハッタンカフェの仔だ。マンハッタンカフェは、青鹿毛と呼ばれる漆黒のビロードのような毛色(日本の伝統色名でいうと「濡羽色」がもっとも近い)が特徴の、品のある姿形をした馬だった。競走生活を引退後は種牡馬として生きていたが、4年前に17歳で病死している。

その仔、シャケトラを知ったのは2年前の日経新春杯。名前が名前だからネタ馬かと思ったら、デビューは遅かったもののとんとん拍子に出世して1000万下を勝ち上がった準OPの身分で重賞にでてきた馬だった。そこでシャケトラは、勝ち馬と斤量差はあったもののクビ差の2着に健闘した。

「配合された牝馬の長所を引き出す」とされるマンハッタンカフェの子どもたちは、なぜか毛色も牝馬側に影響されて、鹿毛(茶色系)が強く出ている仔が多かった。しかしシャケトラは父に似た青鹿毛。本家よりやや茶系が濃いものの、走る姿は汗で黒光りしてカッコ良かった。

その後、シャケトラは2017年暮れの有馬記念後に骨折が判明、治療休養のための1年のブランクを経て、今年1月に復活した。しかし春の天皇賞を前にした4月17日、調教中に左第1指骨の開放骨折と種子骨の複雑骨折を同時発症して安楽死の処置がとられた。

痛くて暴れたわけではないらしい。競馬記者の目撃談(SNS)には、3本の脚で立ち、静かに馬運車を待っていたとある。 

たとえ人間の場合のように、チタンで成型した骨型や固定具を入れる手術に成功しても、競走馬は立って寝るのが普通の姿だから、どうしても残った健全な脚に負担がかかる。負担がかかると蹄葉炎(ていようえん)や関節炎になる。寝かせたら寝かせたで、500kg前後の体、褥瘡(じょくそう)ができるのは人間より早い。そのうえ、治療に国からの補助が出るわけじゃなく、犬猫よりはるかに大型だから莫大な医療費がかかる。結局、莫大な医療費と時間と人手をかけたうえ、当の馬を苦しんだまま死なせてしまうことになる――。

それゆえの安楽死処置。同じ左前肢を2度目だから、大きな負荷がかかった途端、ボルトで固定した箇所が割れてしまったのかもしれない。

21世紀は、安楽死が一般的になるほど、競走馬の疾病や故障に際しての福祉が進んだ。

競走馬にも苦しい死より安らかな死を。

わかっている。それはわかってる。

けれどどこか釈然としない気持ちが残る。

1度目の骨折の後に復帰し、調教中にまた骨折して安楽死の処置がとられた有名馬にはジョワドヴィーヴルがいる。シャケトラが最初に骨折してから安楽死処置までの経過はジョワドヴィーヴルと同じだ。

こういう事故で安楽死処置がとられるたび、テンポイントの事例が引き合いに出されるが、それも釈然としない気持ちに拍車をかける。引き合いに出す人は、「これが現実だよ。だからあきらめなさい」と、悲嘆するファンを説得にかかる。

しかし、テンポイントの時代から、一体何年が過ぎているのだろう?

テンポイントの死は1978年。人間の重度骨折手術でも、髄内釘(ずいないてい)固定やプレート固定の技術や術後(予後)知見は今のように広まっていなかった。ましてや固定具の素材にチタンを使うことなど費用面からも技術面からも考えられなかった時代だ(素材はステンレスが先端技術で、まだ竹を使っていた医療機関もあったようだ)。

いつまでもテンポイントの時代をひきずって思考停止していたくない。

シャケトラはノーザンファームの生産馬である。1回目の骨折時の治療では最新かつ細心の医療を施されたに違いない。それでも競走馬として復帰すると、次の骨折まで運と時間の問題でしかなくなる。

それを承知でなお、なんとかならなかったのか、というのが私の正直な感情だ。

本気には、時間とカネがかかる。競走馬の予後不良~安楽死を少しでも食い止める本気が次のパラダイムを拓くまで、私はシャケトラのみならず沢山の彼ら彼女らの冥福が祈れない